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随想14 RIZIN.40と謹賀新年

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」

 

こういう日本語を書くからには誰かに見られていることを前提にしており、自分のために書かれる日記でそういうことを書くのは滑稽なのだが、公開しているものなのでそういうことをしても問題なかろう、と判断する。どのみち、起きた瞬間のようなものなので、元日として語るべきことは表題の挨拶しかない。

 

昨日は大晦日であり、大晦日も何かそれっぽいまとめをしたり何やら考えたりしようとも思ったがろくなことはしなかった。正月らしいことは次の記事の機会があればしようと思う。

 

 

晦日に身動きが取れなかったのはRIZIN.40を見ていたからであり、実際のところ、間に合ったら公開したいなと思って、昨日の未明からRIZIN.40の意義や紹介を行う文章を8000字ほど書いたのだが、書きたい内容の1/5にも満たないまま日が登ってしまったため、結局死蔵することになった。8000字も書いているのだから正直なかなかマシなのだが、書きたい内容の規模が大きく、それだけのものを用意するにはベストパフォーマンスを出す必要があり、それを自宅でないところですることは難しい。真剣に来年からの帰省については考え直したいが両親も高齢で身動きが取れないしまた来年が近づいてから考えればよいやと横着して同じことを繰り返しそうである。

 

RIZIN.40は14時から始まり、とてつもなくテンポよく進んでいったのに、結局最終試合は22:30くらいまでやっていた。それを待つまでの他に何もできないそわそわとした待機を含めれば、単純に一日がこのために消滅した。最近よくわかったのだが、RIZINがあると休日が消滅する。最近はRIZINだけでなくRISEやK-1や場合によってはUFC、BELLATOR、その他ローカルMMA団体の試合観戦ですら休日を消滅させており、ここにミーハー意識でサッカーなどを見出すとプライベートはなくなる。ともあれ格闘技を見るのも非常に危険だと近年痛感している。僕は自分の経験もあるので言うほどにわかではないが、2017年くらいからはしっかり見出し、現在においては、年間600試合は少なくとも見ているように思われる。見すぎだなと思わされる。PPV観戦で余裕があるはずなのに現場に行くのとほとんど疲労感が変わらない。ただ現場に行く場合、入場前の圧倒的寒さと、閉会後の年またぎ電車移動が寒いという情緒がある。現場にいったら今回も大興奮しただろうな。

 

内容だがとんでもない興行だった。OPファイトは判定だったが、それ以降は1RKOが量産され、今とんでもないフィニッシュを見たのに次の試合が凄くてすぐに記憶が塗り替えられる、というそんな試合ばかりだった。

 

まずベイノアVS宇佐美パトリックだが、ベイノアはRISEウェルター級王者として乗り込みドミネーターを苦しめたことで注目を集めたファイターだったが、宇佐美パトの左ジャブ一閃でKOされた。ベイノアはここまで海人、和島といったキックボクシングのトップオブトップとやって敗北してきていたため、ダメージが蓄積していたと思われるが、逆にいうと宇佐美パトの勝ち方はそれに匹敵する鮮やかさで、立ち技ではすでにライト級トップである。特に、直前の巌流島で矢地が木村ミノルに1RKOされていることを考えると、立ち技だけならMMA日本人ライト級トップである。立ち技だけなら。

 

ただ問題はMMAは立ち技だけではないということで、寝業師でなかろうとも、レスリングができるMMAファイター……もっともRIZINでわかりやすい典型は朝倉未来である……には恐らく全く勝てないだろう。事実、一つ後の試合に登場する大尊伸光に、宇佐美はパウンドストームでつけ切られて完敗している。立ち技だけなら矢地に勝てるだろうが、MMAでは勝つことはできないだろうと思われる。これは木村ミノルも同様で、残念ながら普通のMMAストライカーがキックボクサーとまともに立ち合っても難しいことはわかったが、MMAストライキングはキックボクシングとは違う。

 

ところが、そのMMAストライキングをうっかりキックボクシングにしてしまって敗北したのが次の試合の中原由貴と鈴木千裕の一戦で、結果はボクシングで追い込まれていた鈴木がしかしカウンターパンチ一閃で逆転KO勝ち。中原はONE上がりの超実力派で、本当の強者であるケラモフや実力者の佐々木憂流迦とは巡り合わせで試合できなかったが、代役選手である関鉄矢、原口央には圧倒的勝利をして実力を見せつけていた。対する鈴木千裕はベイノアを思わせるキック・MMAの二刀流ファイターで、Knockoutの現役チャンプでもあるが、もともとの出自はパンクラスMMAファイター。スキャンダルに見舞われ平本蓮のおもちゃとなっているが、実際には見事な実力で、所詮で昇侍にまさかのKO負けを食らうも、それ以降は慎重な立ち上がりで、山本空良、平本蓮、萩原京平、そして今成正和に勝利してこの試合に臨んでいる。はっきり言ってどの人も有名人であり、これらに勝ってきたのに評価は全く追いついていないと言わざるを得ない状態だ。そこに、トータルファイターである中原を迎えての真の格付けマッチが今回であった。結果としては、堅実なボクシングでワンツーを当て続け、打撃で優位と見た中原が油断して打ち合いにした結果、カウンターの一撃で沈むことになった。中原はおそらく、ライト級の中でも相当なボクシングの名手であるが、それですら打撃のみの争いが危険ということがわかる。これが朝倉未来ですら萩原と念の為殴り合いを避けた理由であると言える。完全に打撃で相手をコントロールできる可能性があるのは今回のRIZINであればパトリシオ・ピットブル(か平本蓮)だけだろう。しかし、それをしたら偉いということでは一切ない。中原は敗北後インタビューで、レスリングを混ぜていく予定だったが、パンチがよく当たるので作戦を変えて打撃で攻めてしまった、と言っている。これがまさに油断である。そして、一発でひっくり返した鈴木について地力はまだわからない、という意見も見られるが、むしろ一発でひっくり返せることが地力であり、そしてその辺の打撃ファイターには寝技やレスリングで勝ってきているのだから、やはり地力があるという言うのがフェアな態度である。

 

この鈴木の勝利によってフェザー級ランキングは恐らく変動しており、2023年1月現在は僕の考えるところだと

 

C クレベル

1 牛久絢太郎

2 朝倉未来

3 ケラモフ

4 斎藤裕

5 金原正徳

6 鈴木千裕

7 堀江圭功

8 神田コウヤ

9 中原由貴

10 山本空良

11 平本蓮

12 カイル・アグォン

13 弥益ドミネーター聡志

14 芦田崇宏

15 摩嶋一整

 

ざっくりこんな感じかな、と思われる。ここから脱落している有力なファイターだと中村大介が筆頭格だが、最近は若手にやられているのでランクアウト。逆に彼に勝っているので神田コウヤが高めになっているが、一勝でもすれば15位以内にはすぐに復帰できる。一方苦しいのは萩原京平で、過去の平本蓮には勝っているが、13位14位に完敗しており、どのランカーにも現状では勝ち目がなさそうに見える。長期離脱している白川陸斗は三連勝しているが戦績はリセットされているようなもので、下位ランカーと対戦して現在の位置づけの確認が理想的な復帰戦か。ランク外に青井、関、原口、中田などの下位団体トップ層がいるので、RIZINのフェザー層もかなり分厚い。修斗のフェザーやSASUKEや工藤が離脱しているのでスカスカ、DEEPはかなりRIZINと組み合っており、まだ見ぬ実力者がいるのは(中田以外の)パンクラスか。

 

こうしてみると発表された平本蓮VS斎藤裕は相当な飛び級なのだが、ショーン・オマリーもピョートル・ヤンとやっているしまあこれくらいはRIZINらしくてアリかもしれない。格闘技あるあるなのだが、絶対的な強さを持っている人も、一度負けると、攻略されたのか、調子を崩すのかわからないが、なぜかバタバタと負けてしまう。今その流れに乗っているのが斎藤裕なのだが、斎藤にはぜひ格を見せてほしい。逆に斎藤裕に勝てると、その下の人たちには金原を除いては負けなーと思ったけど鈴木千裕にはまずすでに負けているし、再戦しても若さが拮抗しているので特に有利はないですね。そしてこの調子だと鈴木も上に上ってくるので、絶対に再戦必須だと思います。

 

そう考えると相対的に扱いが悪い鈴木千裕は、次に金原かケラモフと当てられる可能性がありますが、それに勝ったらクレベルと対戦する資格を得ちゃいますね。ひどいパターンだと、さらに牛久あたりとの対戦を挟まれる、という感じにもなるでしょうが。逆にクレベルはダメージはないでしょうから少し急速して誰かとタイトルマッチをする、となったら、春先に朝倉未来VS牛久絢太郎があることを考えると、ふさわしい選手がケラモフしかいません(金原さんとやってもめっちゃ面白いけど、金原さんが斎藤裕かケラモフを倒すというステップが必要な感じ)。クレベルがどのペースで試合をするかはわかりませんが、たとえば王者として夏に1回、大晦日に1回と考えると、まあ夏にケラモフクレベルで、その勝者と朝倉牛久の勝者が大晦日に激突とかでしょうか(もうこのクラスの選手は年2回しかやらない前提でいます。未来選手はMMAは去年は一回もしませんでしたが。)ただ、ここにベラトールファイターとの対抗戦みたいな話が出てくると一気に予定が狂ってくるのが困ります。堀口恭司も可能なら年5回試合したいと言っているし、みなさんも年3回試合をしてくれるととても嬉しいのですが……。

 

話を大幅に戻しますがそういうことで鈴木千裕の次の対戦相手はケラモフor金原がいちばん良くて、妙に下位の人とやるのはもったいないところまで来たと思います。一方のケラモフはもう下からの突き上げはいいやろというバンタムにおける元谷と同じ位置にいますししかも元谷とは異なり実質的に負けていないので、次の対戦相手はクレベルが妥当、悪くても牛久or未来選手にすべきです。そして鈴木と上位ランカーがやった場合には次はタイトルショットであるべきかな……と。クレベルのスケジュールで組めないなら(組めなくても仕方ないくらい頑張ってきた)暫定王者ベルトを作るべきです。

 

で、第四試合はジョニー・ケースVSグスタボが怪我で欠場したので急遽登場した大尊伸光。ケースはムサエフ、サトシ、武田と、年をまたいではいますが3連敗してきてかなり厳しいところでの勝負となりましたが、結果は1RKOで格の違いを見せつけ、かなり嬉しそうに吠えていました。大尊は修斗の1位でかなり実力者のはずですが、ライト級は川名時代から修斗の存在感が薄く、そこに圧倒的な力で現れた西川大和は、ウェルターでも実力を発揮しているのに、修斗と揉めてUFCにも出れないしでかわいそうです。とにかく修斗ライト級は今はスカスカしていると思います。なので一位とはいえ大尊もそこまでの存在感はなく、ただ宇佐美パトにはグラップリングの力量差を見せて完全に打ち返していたので、さて今回どうかと思ったら、ケースに圧倒的な実力差でやられました。ここまで三連敗していたのでケースも衰えてきたかと思ったりしていましたが、やはりそんなことはありませんでした。これがRIZINレベルであり世界レベルのゲートウェイだと思われました。よく考えたら最近調子を崩している印象の(勝ったり負けたりのはずなのに)矢地祐介がKO負けしているんだから、普通の日本人選手はKO負けしますわ。逆に言うとグスタボとの対決はサトシを除くと頂上決戦感があったので、今回それが避けられたのはある意味で天の配剤。そして武田光司がめちゃくちゃ強いんだなと思わされます。武田なんで矢地に負けちゃったんだ。考えられないぞ。西川大和がRIZINにこないためタレントが足りません。木村ミノルが矢地撃破で調子づいてRIZINのライトに来るかもしれませんが、このレベルは打撃の塩漬けできないと思います。でも木村は萩原や鈴木がどうとか言っていたからフェザーなのかな。パンクラスは実力者の久米が長期離脱していて、久米がレベルの日本人門番かな、と思います。雑賀ヤン坊も凄い打撃が強いですが、彼が久米・江藤に負けているところを見ると、この帯域が渋滞しているなという感じがします。一応DEEP王者の大原樹里が、パンクラス暫定王者のアキラを判定で下してRIZINで存在感を見せたかったところにグスタボに一瞬でやられているところを見ると、やはり日本人ライト級の門番水準は矢地選手で、あれでも大原は矢地に勝っていて、武田は矢地に負けている……頭がおかしくなりそうだ……でも、いま日本人ライト級では武田選手だけがネームドの人と言えます。ライト級については今回の大会のメインイベントなので、これで話を終えるわけにはいきません。終盤に続く。

 

次の試合は元谷友貴とホジェリオ・ボントリンです。元谷は堀口恭司に負けたりビクターヘンリーに扇久保に負けたりパトリック・ミックスに負けたりで、バンタムの超トップ層にはしっかり敗北しているんですが、さらに若手の井上直樹に負けてしまったことで井上のプロデュースに貢献したところでうっかり瀧澤謙太にも負けてしまって、なんだこいつめちゃくちゃ負けてるじゃんと思われるかもしれないですが同時にめちゃくちゃ勝っていてめちゃくちゃ強いです。バンタム級はフェザーを超える層の厚さでやばすぎます。ひと読んでRIZIN黄金の階級。RIZINに存在する門番性のある選手の中で最高級の門番です。堀口と再戦したらどうなるか見たい。ミックスとは再戦しても絶対に負けそう。ビクターヘンリーは再戦したらわからない。井上直樹も意外とわからない。瀧澤には何で負けてんだ、扇久保は一番いい試合をしそう、というところです。対するはボントリンで、UFC最高7位の強豪。RIZIN出身で先日タイトルマッチをしたカイカラフランスともいい試合をしており、間違いのない「世界」です。でもカイカラにも逆転KOされてましたけど、この試合でも右ミドルからの膝蹴りでKOされました。というか元谷普通に拮抗していて、どうなるどうなるといったところで見事に蹴りで組み立てて、普通に2RKOなんで見事としか言えません。なんでボントリンに勝てちゃうの? でも確かに負けた相手を見たら「あ〜……」ってなるくらいには強い人しかいません。

 

次は平本VS”X”でしたが相手は梅野源治でした。なんかRIZINがXを募集するときって、公募感出すけど基本的に自分たちのお手盛りで決めるってことをすっかり忘れてて「誰になるんだろう」って本気で思ってました。ふつうに今年大活躍した梅野と炎上対決です。既定路線だった皇治さんのことを考えれば代役としては妥当ですね。しかも相互のセコンドに去年大炎上した久保・シバターもいて、プロレス的マッチメイクとしては出来すぎていてびっくりしました。試合は体重差もありますが平本蓮が圧倒的なボクシング技術を見せて、ほぼ2R終了と同時に梅野をKO、だったけれどもゴングと同時だったのでノーコンテスト。エキシの2Rだったけれども、朝倉メイウェザーのオマージュでそれを狙ったというから大したタマですよ本当に。平本蓮の打撃はRIZIN全選手の中でいちばん美しいです。全選手の中でね。そして階級の重要性も非常に思い知らされました。やっぱり階級をまたいで勝負している堀口恭司扇久保博正、キム・スーチョルは化け物ですね。アーチュレッタもそうでしたっけか。あれ、二階級王者のピットブルという人もいたような……。

 

休憩を挟んで次は所英男とドッドソンのフライ級マッチです。ドッドソンはUFCフライ級1位、バンタム級8位までいった超強豪で、フライではDJの次に強かったわけだし、バンタムでは僕らの大好きメラブ・ドバリシビリに敗北したのが最後の試合となっております。陽気なキャラクターで所のこともよく知っており、実力に裏付けされた紳士さを感じていました。ただファイトスタイルは全然知らず、どんな感じかと思っていたらめちゃくちゃなストライカー。所との身長差がかなりあるのをものともせず、まるで堀口恭司のように俊敏に中に入って殴ってくるもので、繰り返しになりますが本当に堀口のようだと思いました。所、ドッドソンの猛攻に全く太刀打ちできず、コーナーから脱出しようと背中を向けて逃走したところを全力で追いかけられさらに追撃されてパンチでKO。前回の神龍との激闘を考えるとありえないほど圧倒されて負けました。ということは神龍と勝負したらどうなるかが気になりますが、圧倒的に若い神龍が打撃で負ける感じはしないところです。鶴屋怜もドッドソンに興味を示しており、RIZINで活躍してほしい気もするが、さっさとUFCにいってほしい気もする、極めて微妙なところです。見る限り、RIZIN周辺のフライ級では、最強は堀口で、次にドッドソンという感じはします。

 

所さんといえばRIZINに復帰した堀口恭司とも試合をさせられてボコられたことは記憶にそろそろ新しくなくなってきたところです。が、それ以降そんなにコンスタントに試合に出ているわけではない割にこの存在感はすごいですが、オリンピアンと戦ったり那須川天心と戦ったり本当に仕事は忙しくしていて、この人のキャリアの集大成となる試合に恵まれてほしいなあと強く思うばかりです。

 

続いてスダリオ剛VSジュニア・タファ。元貴の富士のスダリオはその圧倒的なポテンシャルから日本ヘビー級の希望の星になると期待されていましたが、対するマーク・ハントの弟子であるジュニア・タファが、若くてキックボクシングのとても髙い技量を持っていることから、この試合はどうなるものかとみんなが思っておりました。結論としては打撃を先に当てられ1RTKO。シビサイに敗北したときには不得意な寝技でやられましたが、今度は得意な立ち技で上回られました。タファは寝技に穴があるので、シビサイなら勝ってしまいそうですが、そのシビサイはスダリオに瞬殺された関根シュレックに敗北していて、さらにレジェンドファイターのジョシュ・バーネットに一昨々日の巌流島でシビサイが負けているなど、日本ヘビー級には現状抜けている人がいません。気になっていたのはスダリオが先日計量時の握手やグローブタッチを拒否するなど少し非紳士的な振る舞いをしていたことです。今回の大会には世界トップ(それどころか頂点)レベルのファイターが何人も登場してくれましたが、そんな幼稚な振る舞いをした人は他にいませんでした。別に何をしてもいいですし、そういう振る舞いは強いやつがしろ、といいたいわけでもなくて、僕にとっては非紳士的な振る舞いが自信の無さに見えてしまった、という感じです。タファは圧倒的な力がありましたが、シビサイのように寝技ができる人をどう超えれるかが注目の的です。

 

バンタム級トーナメント三位決定戦、本当は半年は前にするはずだった井上直樹VS瀧澤謙太が、井上の怪我で延期されて大晦日にキックオフです。二人ともかなり高いレベルの動きを見せていましたが、井上がジャブで上回り、当然のように寝技でも圧倒して、2Rでは打撃で弱らせたところにタックルからテイクダウンを奪って謎のアームロックを極めてフィニッシュ。瀧澤もそこまでの流れで十字に耐えたりなど健闘をしましたが、あと2、3歩及びませんでした。井上もレスリングに難があると言われ続けていたので、この一年でそこの強化をしまくっていたと思いますが、タックルを取ったのはその実例の一つかもしれません。

 

井上と言えばRIZIN参戦からどこかを負傷していたと試合後に言うことが多く、いったいいつのタイミングが万全だったんだよと思わざるを得ないところですが、扇久保戦は恐らく万全でも競り負け、それ以外の場合は、負傷をしているときはフィニッシュできず、していないときはフィニッシュしていたという流れな気がします。具体的には、元谷、石渡戦は万全で、金太郎・ガーダム戦は負傷していたかなと(そうでなければなぜ格下の相手を極められないのかという疑問が出てきます)。今回はしっかりとサブミッションを極めたので、これが本来の井上の強さかな、と思われます。

 

そう考えるとむしろ瀧澤は頑張ったなと思われます。瀧澤は元谷をKOするというジャイアントキリングでのし上がった男ですが、実力的にはトーナメント直前のマッチアップが参考になります。そこでは金太郎に判定で競り勝ち、扇久保、憂流迦に判定でほぼ完敗という流れがあります。またそろそろ忘れ去られてきたましたが、パンクラスのタイトルショットで、ハファエル・シウバに一本負けしているのも重要です。シウバはなかなか面白い選手で、パンクラス王者ではありましたが、石渡伸太郎に敗北しており、彼の引退にともなってベルトを手に入れています。そして金太郎、瀧澤に勝利、過去の試合ではビクター・ヘンリーにも勝っています。ところが、ダリオン・コールドウェルとBELLATORで対戦経験があり、これには敗北。また、キャリアの最後となるONEの舞台では、元修斗バンタム級世界王者の佐藤将光に敗北しています。

 

修斗バンタム級といえば知的ファイターの岡田遼がしばらく王者でいまして、佐藤のベルト返上にともない正規王者になりました。後に野性的なファイトをする安藤によってベルトを奪われていますが、そもそも修斗代表としてなぜかRIZINバンタム級で活躍していたのは扇久保です。扇久保は長らく修斗のフライ級王者であり、なのにバンタム級をしていました。このため弟弟子である岡田は扇久保と戦わないためにもRIZINにはトーナメントを開催するまえでは出てきませんでしたが、こうしてみると修斗バンタム級は層が薄いように感じます。一瞬だけ戻ってきた夜叉坊もすぐに敗北して消えるし、格闘DREAMERSの中村倫也は一瞬だけ修斗を踏み台にしてRTUに行きました。これと比較すると修斗フライ級にはかなりタレントが揃っている印象です。こういった層の薄さには、佐藤がONEに参戦して長らく日本を留守にしていたということが大きい要因になっている気がします。佐藤は、最近の戦いでこそ振るいませんが、シウバも撃退しているし、ONEも白星先行している確かな実力者です(負けてるのもONE王者レベル)。RIZINではシウバを撃退している石渡が長らく活躍していたことを考えると、佐藤のレベルがRIZINであるべきレベルということになります。そして井上は石渡を撃破しており、そして岡田を撃破した元谷に勝っているので、……といえば瀧澤も元谷に勝っているのでした。

 

なぜ武田矢地に負けたのか問題が再燃です。試合は水物なので三段論法が予定どおりに通じるものではありません。が、長期的には実力は収斂します。井上は石渡に勝って元谷に勝ってで扇久保と対戦しているので、まぐれで勝ったわけではありません。もし瀧澤が朝倉海に勝っていれば、かなり期待感も変わったことでしょう。朝倉海も、堀口に勝ったーーこれはまぐれであっても凄すぎることで、その後の活躍を見たら誰がまぐれで堀口恭司に勝てると言えるのでしょうかーーあとにさらに佐々木憂流迦を長期戦線離脱させる大ダメージで勝っていて、かつ扇久保をKOして王座戴冠しました。強者を三人以上倒すという形で実力を証明しています。

 

ということで最新の勢いを踏まえると目が眩むところもありますが、井上VS瀧澤は井上が優位でしたが、フィニッシュされるパターンで2R4分まで井上が粘ることは珍しく、こんな風に言われるのも名誉ではないでしょうけど、瀧澤の地力向上が示されたと思います。今の井上には、もし扇久保再戦があったとしても、同じ結果にならないのではないかと思わされます。一方で、待望される朝倉海戦、そして堀口恭司戦でどうなるかは見もので、堀口についてはチョークこそ狙ってこないものの全ての上位互換という感じがします。一方でストライカーという尖った性能の朝倉海についてはどうなるかですが、朝倉海を転がすことは恐らくできない(他の誰もできていないため)ので、打撃勝負になりますが、中原鈴木戦でもわかったように、細かいボクシングが上手でも一撃で覆されて倒される可能性があるのが打撃戦です。そのためこの攻撃を崩すために距離の遠い堀口の全力カーフキックが効果的だったわけですが、このレベルのカーフを蹴れるやつは堀口以外にはいないということが結果的に今日明らかになったと思います。そう考えると逆に朝倉海の拳を壊したヒロヤマニハの凄さが知らされてくるし後のキャリアに関わるやばいガードをよくもしてくれたなと恨みにも思えてきますが、負傷した状態ですら朝倉海は扇久保にテイクダウンされなかったので、テイクダウンディフェンス能力はRIZINバンタム級では最高です。そういえばマネル・ケイプとい人がいましてね……。

 

伊澤星花VSパク・シウは、スーパーアトム級(49kg)のトーナメント決勝戦です。ONEアトム級にハム・ソヒがいますが、こちらは52kgだけどアトム級なので、Sアトム級はRIZINにしかなく、ゆえに世界最強決定戦がここになります。打撃とフィジカルで圧倒するパクに、それより少し劣るが打撃も出来、そして空前絶後レスリング・柔術能力を持つ現王者の伊澤が戦うという流れになります。この二人はDEEP JEWELSでも試合済で、その際には反則のサッカーボールキックでダメージを受けた伊澤が判定勝ちをするという展開でしたが、RIZINでは反則ではありません。さてどうなるかといったところでしたが、基本的には寝技に絶対の自信があるゆえに打撃の思い切りがよくしっかりコンビネーションが打てる伊澤がパクとほぼ互角の打ち合いをしながらレスリングでパクを追い詰めていきました。しかし、パクのフィジカルが卓越しており、あるときには範馬勇次郎に組み付く範馬刃牙のようになっていました。結局伊澤はパクを仕留めきれまあ先でしたが優勢に1・2Rを進めたものの、まだ生きていたパク、転がした伊澤に踏みつけをヒットさせ、そこからのパウンドで仕留めかけました。多くの観客はこのやりとりをしてニアフィニッシュとしてパクの判定勝利だっただろ、といいたいようでしたが、僕から見るとむしろすぐに回復してダメージのなさを伊澤はしっかりアピールしたように思いますし、実際そのようにジャッジも見ていたように思います。トータルマストだからといって、3Rでちょっとだけいいシーンを作ったら1・2Rがなかったことになるわけではない、ということだと思います。正直、トータルマストの方が面白いけれど、計算がしにくいトータルマストは理不尽ですよね。みなさんが嫌がるONE判定もトータルマストのせいがでかい。

 

僕の目から見ても伊澤の方が上回っていたと思います。他の選手ほどの差は全然なかったけれど、勝敗を決めるだけの差はあったかなと。パクが勝っても文句はなかったけれど、伊澤の勝ちだと思いました。でも、パクはとても立派だったなと思います。彼女が最後に韓国語でスピーチしたときに、韓国語の通訳を用意していなかったRIZINは反省してほしいです。とてつもなく残念でした。伊澤はめちゃくちゃ強いですが、攻略法はフィジカルだなと思われました。だから一番の好敵手はパク・シウで、寝技に付き合う可能性がある分、ハム・ソヒがもし来たらむしろ相性が悪いのでは?と思わされました。この、攻めている方が好印象をつけられる・攻略法はフィジカル、というのは、まさにRIZIN・BELLATOR対抗戦で見えたキーワードでもあります。ともあれ、伊澤の望み通り、浜崎を二度屠って王座戴冠したというのに、根こそぎ強い女子ファイターを刈り取って名実ともに(元から十分でしたが)王者になりました。残っているのは負傷欠場したRENA選手だけですが、冷静に考えると、浅倉カンナに二度敗北しているRENA選手に勝ち目があるとはとても思えない、というのが正直なところです。やはり52kgにあげてUFCストロー級にチャレンジしてほしい気もします(そもそもDEEP JEWELSではストロー級)。ONEに行くのはもったいない。ベラトールでは最軽量がフライ級だし、一刻も早くUFCに行ってほしい。パクはそのまま残ってRIZINでSアトム級王者になってもいいし、とりあえずROAD FCで王者になって(なれるに決まっている)、そこからUFCかONEに行く手もあります。でもストロー級のジャン・ウェイリー強そうすぎるんだよな……。

 

ここまでがプレリミナリーで、驚くべきことにここから本番ということです。OPにも新たに流され、RIZIN 男祭りというロゴとともにPRIDEの音楽が流れました。マジで震えました。凄いです。過去のPRIDE時代の様々な記録とともに、RIZINと世界をつなげる映像が流れました。全てがPRIDEの音楽と意匠で行われ、まるでPRIDEが帰ってきたようでした。PRIDEはUFCに吸収されましたが、世界最高峰の舞台としてはUFCにその位置づけが移譲されたものの、PRIDEの精神についてはそうではありませんでした。まるでそれが戻ってきたかのようで本当に興奮しました。ここまで、1RKOが連続し、それ以外でも2RKO,判定を迎えたのは実に二試合だけという圧倒的なテンポで進んだ興行でした。14時から始まって、19時に対抗戦が始まりますが、5時間で10試合。ならすと1試合30分ですが、そもそも入場演出とかもめちゃめちゃキビキビしていて、だというのにこんなに時間がかかっていたのかという驚きがあります。

 

対抗戦一試合目はヌルマゴファミリーであるガジ・ラバダノフと日本人ライト級の星・武田光司です。本当に素晴らしいファイトでした。危険な打撃を持つラバダノフに見事に1Rでストレートを当てられダウン、さらにそこからグラウンドのパウンドで畳まれたにもかかわらず、おそらくこれまで無限に修行してきたレスリングのタックルと不屈の闘志で立ち上がり、組み付いて生き延びました。そして、無限のスタミナで2R・3Rとラバダノフの綻びを誘い、レスリングで圧倒していきました。最終的には序盤のダウンと、最終盤に決定的なダメージを取ろうとした武田の左ミドルに反撃の膝がローブローしてしまい、その衝撃でテイクダウンされたまま試合終了。まあ最後のこれがなくてもラバダノフの3-0勝利なんですけど、最後まで決定的な場面を作りにいった武田の不屈の闘志が素晴らしすぎます。武田が泣いていて本当に悔しかったし、それ以上の感動がありました。日本人ライト級でヌルマゴファミリーと戦った人といえば先日のONEでのイザガクマエフと青木真也ですが、青木は序盤に打撃で倒されそのままフィジカルで圧倒、1Rでパウンドアウトされました。武田はその局面から生き返り五分のところまで持ち返したのです。ただ、打撃を食らってしまうことは明確なウィークポイントであり、あれを克服できれば勝てるけれど、あれを克服できなければおそらく、僅差だ!世界との距離は近い!といいながら永久に埋まらない僅差を感じ続ける羽目になります。とはいえ武田はジョニー・ケースの打撃を御し切った男。これ以上の練習パートナーはいるのだろうか。テイクダウンディフェンスではなく、テイクダウンが取れる打撃ができるレスラー、即ちヌルマゴ的なスタイルのファイターは誰なのでしょうか。全然いなくない? ハワイではなくATTにぜひ行きたいところです。でも一つ見えましたが、多分、武田はグスタボには勝てると思いました。でも、サトシには相性的にはきつい。最高レベルのMMAは、ジャンケンなのに出目の大小が問われる、とても複雑な競技です。

 

次の試合はキム・スーチョルVSフアン・アーチュレッタです。バンタム級の代表戦ですが、スーチョルが扇久保に勝ってしまったため、スーチョルが代表になりました。本当は朝倉海が出たかった局面だと思います。そうなった場合のかなり面白い展開予想については3分後くらいに。スーチョルはROAD FCとONEのチャンピオンで、フェザー級王者なのになぜかバンタムでも王者になっていて、しかしパニック障害で戦線離脱していたところで、近年復活してきたそうですが、全く衰えがわかりません。ゾンビファイト力が凄すぎます。対するアーチュレッタもなんかバンタムからライトまで三階級をまたいで戦う異常なファイターで、なんとパトリック・ミックスに勝ってベラトールバンタム級王者になっています。その後、ペティスに負けて王座を失っていますが、正直どちらが勝ったかわからなかったような内容です。その後、バンタム級トーナメントで現暫定王者のラフェオン・ストッツにKO負けを喫しています。ストッツやばすぎます。ヌルマゴファミリーのマゴメド・マゴメドフが圧倒的な力でランキングを制圧していくと思ったら、なんとマゴメドに判定で競り勝ったものですからベラトール選手層がやばすぎると思わされました。なおミックスがマゴメドフをチョーク葬してましたからさらにやばいです。ミックスにかったアーチュレッタをKOしていることを考えるとストッツが優位そうに見えますが、このレベルのMMAでは三段論法が通用しません。さて話を戻しますが、ストッツが強すぎることを除けば、堀口恭司に勝っているパトリック・ミックスに勝っているアーチュレッタ(三段論法は通用しないのではなかったのか?)が出てくるんだから、めちゃくちゃやばいに決まっています。ところが、やってみたらスーチョルが圧倒的に善戦していました。もっとも、単純なレスリング力ではアーチュレッタが圧倒しており、テイクダウンも何度となくとり、打撃でもある程度アグレッシブに攻めていました。とにかくアーチュレッタのタックルにセンスがあり、また試合構成の戦略にも知性を感じました。一方で打たれても倒されても前に進み立ち上がり続けるスーチョルのゾンビ力は本当にやばいです。イスラム・マカチェフがイーグルⅡならスーチョルはコリアンゾンビ弐を襲名すべきです。そしてカーフキックが明確にアーチュレッタの左足を破壊しており、さらに三日月蹴りが一発入っており、打撃の精度面ではスーチョルが上回っていました。これを踏まえて「ダメージではスーチョル有利だろ!RIZINはダメージ重視じゃなかったのか!?」と吠えている人たちも見ますが、僕の考えではそこまでのダメージは出ていません。つまりダメージというのはニアフィニッシュのことで、ニアフィニッシュというのはいうなればこのままあと1〜2分続いても抜けられないしそうしたらその間に確実にフィニッシュされるな、という状態のことで、たとえば去年の大晦日における朝倉未来VS斎藤裕では全ジャッジが未来選手にダメージをつけていましたが、それはまさにそういう状況でした。でも、カーフ2発で足が流れても、それだけではそういう状態とは言えないです。堀口のように、カーフを4発当てて歩けなくなった人に強烈なパウンドが2発くらい当たって、そのまま倒れた相手がガードできない状態でタコ殴りになったときにもし時間切れになってしまったらダメージだと思います。その際に、もちろんカーフで歩けなくなっていたら大ダメージだとは思うんですが、カーフで歩けなくなっていた人にがら空きのパウンドを決めたところでようやくダメージ、だと僕は思います。もしくは、そうなることが見えているから歩けなくなったところで予期的にダメージをつけることもありで、2発くらいではニアフィニッシュとは言えないからダメージではない、と僕は思います。三日月も同様で、また朝倉未来の事例ですが、これを食らって動きが悪くなった弥益ドミネーター聡志に、左のハイキックを与えてダウンを取り、これでTKOとなりました。このハイキックがダメージなのであって、それを用意した三日月はダメージそのものではありません。もちろん、三日月を食らってうずくまったらダメージです。でも、三日月を食らって動きが悪くなった程度でダメージを取るのは、ないと思いますし、実際今回の試合では判定はほとんどなかったけれど、そうやってつけられたポイントはない、と思いました。だから伊澤へのパクの踏みつけもダメージとして評価されなかったわけで、一瞬目が飛んだとしても、すぐに復活していれば問題ないと言わなければならないはずです。目が飛んだのは演技かもしれませんからね。立っている状態で倒れたらダウンとわかりやすいですが、踏みつけは倒れるというモーションがわかりにくい、という特徴があるかもしれませんが、それは柔術における極めが、キャッチなのかそうなのかわかりにくいという問題と似ているかなと思います。逆に、今回の試合ではそこを見極めるべくジャッジがじっくり選手を見ていた気がして、たとえばスダリオ・タファ戦もそんな感じで少しスダリオが殴られすぎました。そして次戦の人も同じように少し殴られすぎました……。逆に、

 

スーチョルとアーチュレッタの試合は、ふつうにベラトールタイトルマッチでいいレベルの内容であり本当に見事でした。スーチョルの残念なところは、あれだけ明確に効いていたカーフキックを連続して蹴らなかったことです。これは明確にそうだと言える。それをしていれば勝ってましたぶっちゃけ。でも、それだけ蹴れるのってもしかしたら世界で堀口だけかもしれませんね。ダスティン・ポイエーがマクレガーをカーフキックで殺していましたが、それももっとじっくりした蹴り方であって、堀口のような思い切りのいい蹴り方を短時間に執拗に繰り返すファイターはマジでほかに見たことがありません。あと、スーチョルがトップをとっていたときに謎に高速でブレイクしたことがあって、あれはアンフェアだ、と思いました。が、全体的にはアーチュレッタが上手かったと思います。これだけのゾンビ力のあるスーチョルをいなせるだけの上手さがあるということは、たとえばポイントアウトをするゲーム戦略を卑怯だと思う人もいると思いますが、そういうことを遥かに超えた上手さがあると言わざるを得ないと思います。

 

日本人バンタム級にスーチョルを倒せる人がいるのか? と思わされますが、先ほど予告した話として、もし朝倉海とアーチュレッタがやったらどうなるかを考えます。スーチョルと朝倉海は体型が似ていると思うのですが、大きな違いは、恐らくアーチュレッタは朝倉海をテイクダウンできないということ、そして朝倉海の方がパンチ力があるということです。代わりにあまり蹴らないと思うのでそこが違うのですが、万全な状態の海選手であれば、アーチュレッタのタックルに合わせてテンカオを蹴るなどのことも可能であり、転がされないのであれば打撃でダメージが蓄積する展開が予想できました。逆にアーチュレッタはあまりカーフを蹴らないので、そっちの心配もありません。アーチュレッタとは朝倉海は相性がいいです。

 

逆に朝倉海とスーチョルならどうか? これは逆に怖いです。なぜなら、スーチョルは上手さというよりも無痛的な突進で攻めてくるため、タイミングでタックルしてくるアーチュレッタなどよりもカウンターを合わせにくく、そこから組み付かれて、万全の体調なのに扇久保的蟻地獄に入る可能性があります。しかも、スーチョルに限っては海選手の渾身のパンチでも倒れない可能性があり、アランヒロヤマニハのときのようなことにならないかが心配です。ただ、海選手が堀口カーフ以外で倒れる姿は想像できません。そして、バンタム級トーナメント決勝の扇久保戦は、拳負傷によるダメージがあまりにも大きく、参考にならない試合であるとの気持ちを強めました。それは、海選手の次戦で圧倒的に明らかになることでしょう。

 

それから井上直樹だったらどうなのかも大変興味深い比較です。スーチョルと井上は、やはり同じ理由で相性が悪いように思われましたが、井上のサブミッション力であればワンチャンスを物にできる可能性もあります。が、井上の細かい打撃をものともせず正面突破で井上にダメージを与えてくる可能性が極めて髙いです。井上は避ける力によってコンディションを管理していますが、扇久保に組み付かれて指が抜けるなどのダメージを負って敗北しましたが、同じことは打撃のダメージにも言えることだと思います。また、スーチョルは意外とレスリング力があり、組み伏せる力もありますが、特に立つ力が強い。制する力としてはアーチュレッタの方が結果的に高かったと思いますが、まるでアーチュレッタがコールドウェルのように塩漬け戦略になってしまったのは、下から抵抗するスーチョルの圧力が強すぎて、キープに専念するしかなかったというのが通説です(SNSYouTubeでいろんな人の意見を見た限りの)。井上とアーチュレッタのキープ力は、アーチュレッタの方がわずかに髙いような気がしました。その代わり、サブミッションの極め力は井上の方が上だと思いましたので、油断したところで一本を取りうる危険なマッチだと思いますが、そういうモーションが起きるときは立つチャンスでもあり、スーチョルは立ってくる気もします。アーチュレッタ戦よりもフィニッシュが出やすい危険なマッチだと思います。逆に井上とアーチュレッタはどうか。基本的にはレスリング対決な気がします。アーチュが押さえきるか井上が下から攻めれるか、というところですが、井上が下からアーチュを極めれる感じはしないので(ミックスも極めていないので)、そうなるとバックを取るしかないですが、アーチュレッタは絶対にバックを取らせてくれない気がします。そうなるとスタンドの勝負となりますが、スタンドの勝負は五分な気がします。が、タックル力はアーチュレッタの方が上と思われるので、僕の考えではアーチュレッタ微有利です。が、これも面白いので見てみたい!

 

そして堀口恭司VS扇久保博正ですが、堀口圧勝でした。フライでもこのパフォーマンスなら、ミックスみたいに異常なフレームで潰してくる相手は……アドリアーノ・モラエスがいたけど彼はATT同門だから試合しないと思うので……もうほぼ大丈夫と思われます。頂上決戦は堀口がRIZINとベラトールの同時フライ級王者となって、UFCモレノ、フィゲレード、ONEでDJを攻略し、最後にUFCに復帰したヘンリー・セフードを倒してMMAを全面クリアしてほしいです。

 

さて扇久保とは三回目の対戦の堀口ですが、最大の圧勝だったと思います。それでも、KOされず判定まで生き延びたことは凄いのですが、それで褒められてもしょうがないと本人も思っていることでしょう。しかも今回は負け方が悪く、朝倉海がやられたのと全く同じでカーフキックで足を壊されて攻略されました。この負け方はやばいです。1R目にそれで立てなくなったところをパウンドでまとめられて、たまたまロープにひっかかったから生き延びられましたが、朝倉海は同じ状況でKO取られました。この差に力の違いがあるんだ、と言いたくなるところですが、ここにはないです。これこそがダメージでありニアフィニッシュです。それにしても、ペティスにもミックスにも通用しなかった、ことによっては金太郎にも通用しなかった?カーフキック戦略を扇久保に使われてしまったのを、どう捉えればよいでしょうか。

 

堀口のカーフはカットするしかないですが、そもそもカットも危険で、避けるしかない。しかし避けるスタイルで勝った人を見たことがないのですが、たとえばDJなら避けそうだなと思いました。そして今回活躍したドッドソンも同じく避けられそうです。井上直樹も避けるスタイルで戦えそうですが、海選手はスタンスの問題で足を狙われると依然として危険、と思われました。ペティスも実際には負けていたわけで、ただ足を破壊されなかったおかげで最後まで逆転の目が残っていました。ミックスのように圧力をかけて組みで戦える選手は、フレームの問題でRIZIN周辺にはいなそうですし、フライになったら世界規模でもいないように思われます。と思ったらこの想像ももはや儚い夢想か……とはいえとなるとやはり堀口に勝利した海選手の戦績が輝きます。トーナメントはしてもいいけどワンデーで準決勝・決勝をするのはもう絶対反対ですね。

 

話を戻しますがそういうことで、カーフキックで態勢を壊されてもう序盤からガタガタになってしまいましたから、正直あまり試合として言うことはないかもしれません。扇久保の気持ちが見たかった、という意見もありましたが、気持ちは見えましたよ。だって海選手がKOを取られたところから生き延びていたわけですから。堀口さんはスタンドだったらKO取れたと思いますが、関節で一本を取ることで完全勝利をしようとしていたように思います。嫌過ぎる。でも、それだけは防ぎました。でもその防御は勝利とは関係ない。悲しいです。これはカーフじゃなくても言えることで、髙い攻撃力を持った万全な状態の海選手に敗北したのもほとんど同じ事情だと思います。逆に別軸でやばかったのがスーチョル戦で、一撃の攻撃力は必殺というほどでもないが、じわじわと効いてくる上に勢いが落ちないコリアンゾンビ弐に押し切られたことこそが、実はいちばん厳しい敗北だったのではないか、と思います。このシチュエーションは、扇久保選手は勝ってきてたんですよね。たとえば石渡伸太郎戦とか。一方で単純にフレームの問題でもなくて、たとえばスーチョルは170cmですが井上直樹は173cmです。じゃあ何が違ったかといえばやっぱり打撃をメインにしなかったことじゃないかな、と思います。堀口も捉えられなかったわけですが、寝技で扇久保と勝負をするというのはあらゆる意味で得策ではなくて、井上直樹は寝技に自信があったがゆえにその罠にかかった、ということなのでしょうね。井上は打撃で石渡をKOしているので、打撃だってヤバいですよ。もちろん扇久保もそれはわかっていたので組で勝負していったわけで、しかし井上に組で勝負できる人がどれだけいるのか? 扇久保がいかに一流かがわかります。この話は、一事が万事だと言えます。組につきあったら負けるし、付き合わなければ勝つ。それが完全に出たのが次の試合です。

 

クレベル・コイケVSパトリシオ・ピットブル・フレイレです。パトリシオはベラトールのP4P1位であり、恐らく比べるべき選手はUFCP4P1位となったヴォルカノフスキーしかいません。階級も一緒だし。だから本当に世界最強なんですが、いつもだったらLed Zeppelinで入場してきてあまりにもあの曲のレクイエム感がすごすぎて震えていた僕でしたが、今回に限っては哀愁しか感じませんでした。世界から怯えを感じました。パトリシオは謎のウォリアーコスプレをさせられていて結構滑稽な状態だったのに、それでも真の強者オーラが強すぎて関係ありません。

 

試合が開始すると、一言で言うと塩でした。パトリシオがクレベルを徹底的に追い詰めましたが、あまりにも危険を排除してカウンターに徹し、コーナーでの詰めも行き過ぎないことを徹底していたため、致命的なダメージはゼロです。ただし、その代わり、クレベルの柔術が本当に一切通じないという展開になりました。一瞬だけトップを取ったこともあったような気がしましたが、一瞬で弾かれましたし、引き込んでも逆に有利といえるような状態でも、完全にすぐに立たれますし、関節の防御も完璧。ヘタウマっぽい打撃で触っても完全にいなされ、無理に組み付いても一瞬で捨てられる。パトリシオのフィジカルは化け物でした。恐らく現役王者でありかつP4P1位であるということから、ベラトールの名前を背負った存在として、他の誰よりも敗北が許されないと思っていたことが、パトリシオにあの攻め方をさせたのだと思います。たとえば近々のタイトルマッチであったアダム・ポリッチ戦もかなりの塩試合でしたが、あちらは実力差がありすぎたゆえの塩という感じでしたが、今回の試合は警戒しすぎたがゆえの塩です。とはいえ、クレベルがボコボコにやられたマテウス・ガムロットとのKSWのタイトルマッチと比較して、ピットブルがガムロットより弱かったように感じるかというとそんなことはなくて、ピットブルは牙を出さなかったな、というのが正直なところです。しかし、もしKSWやBELLATORの基準で5ラウンドマッチを行ったらどうなったか。5Rあれば、今回よりもより致命的なチャンスが生まれた可能性は十分にあるな、と思わされました。それが見れないと、もしかしたら納得いかないかもしれない。BELLATOR側で対抗戦リベンジを行ってほしい! ちなみにピットブルがもっとも頑張ったな、と思ったのはAJマッキーとのリベンジタイトルマッチです。そして僕の見る限りではマッキーが勝っていたと思いました……。だから、マッキーのレコードは19-1ですけど、実質20-0みたいなもんです。

 

日本勢として面白いところは、ああすればクレベルが攻略できるんだ、というところです。実はこれはマッキーVSサトシからも伺える、、、というかむしろこちらの方がよりそういう風に見えるのですが、なるほどこうすればいいのだと。でも、じゃあその秘訣って何かっていうと、打撃で詰め寄られても全く動じない圧倒的なフィジカル、常にコーナーに追い詰めて圧力をかけるスタイル、という感じで、一歩間違えるとドームでの朝倉未来のスタイルに凄く似ています。違うのは引き込まれてしまうフィジカルの弱さだけ、となってくるとこれは鍛えようがあるのだろうか?と思わされます。もちろん柔術面での対策も重要ですが、もしかしたらピットブル戦は見れば見るほど発見がある可能性もありそうだな、と思いました。ピットブルは、これまで日本人選手全員が「クレベルと戦うときはこうだ!」と夢想していた戦略をやりました。ピットブルならもっと圧倒的に勝つかも知れない、とみんな思っていたかもしれないですが、逆に、ある意味で本気を出さずに、日本人が夢想していた戦略を実現しただけでももの凄いものがあります。ほかにベラトールフェザーのタレント誰がいるかな……マッキーと対戦したらクレベルは負けるだろうな、と思いました。恐らく、絶対的に負けます。しかし、たとえばアダム・ポリッチやコールドウェルだったら、クレベルは買っちゃうだろうな、と思いました。だいぶ落ち込んじゃいましたけど、エマニュエル・サンチェス当たりがクレベルとどう戦うかが丁度いいかも、と思いましたけれど、今だったらアーロン・ピコとジェレミーケネディの二人がいましたね。特にピコ。ピコとやっても勝つ可能性が高いなクレベルは、と思わされます。

 

ラストはホベルト・サトシ・ソウザとAJマッキーの頂上決戦です。さっきも言った理由により僕の中ではAJマッキーはトーナメント覇者であると同時に今でもフェザー王者みたいなもんです。だけどピットブルとずっとやっててもしょうがないからライトにいった、って感じですけど、パトリシオ、別に負けてないのにライトのベルトを返上しているんで、逆にこっちはこっちでパトリシオはライトの王者みたいなもんです。そもそもマイケル・チャンドラーに勝って戴冠してますからね。パトリッキーよりもパトリシオの方が二段は強いので、ウスマン・ヌルマゴメドフとやってどうなるかめちゃくちゃ気になりますが、ウスヌルとマッキーも同レベルで気になります。流れでいえばマッキーがウスヌルをぶっ倒してライト級王座戴冠がいちばん美しいし、マッキーがウスヌルに勝てるかどうかは、UFCには存在しないベラトールオリジナルストーリーです。つまり、ベラトールの申し子が、世界MMAを席巻するヌルマゴファミリーを屠れるかどうか、ということです。そもそもベラトールライト級には我々のムサエフが2位(実質1位)に君臨していますから、これも気になります。

 

ベラトールライト級もかなりの群雄割拠で、ウスヌルがパトリッキーを倒して制圧したように見えて、そもそもパトリッキーに勝っているムサエフがすでに直下にいるわけですね。また、パトリッキーに敗北しましたが、ランキング4位だったピーター・クエリーがしっかり9位に残っています、っていうかこんなに下がる??? 一方、ムサエフが攻略した当時のランキング1位のシドニーアウトローもなぜか下がりまくって5位に。この人は2019年のベラトール・ジャパンでマイケル・チャンドラーと対戦し1RKOされていましたが、ムサエフも全く同じ成績で何なら2分ほど速いのでムサエフはチャンドラーより強いのでは?(錯乱)。で、ここに武田を攻略したスパイク・カーライルを判定で下したAJマッキーがとりあえず8位ランクイン、さらに10位に先ほど述べたラバダノフがいるということになるわけです。うーん、とりあえずウスヌル・ムサエフ・マッキーが全員王者候補にいて、そこをヌルマゴファミリーのマメドフやラバダノフが突き上げていく……ってベラトールライト級、ヌルマゴファミリーがすでに3人いるのだがどうなってるの?? 

 

で肝心の試合なのだが最高級でした。徹底的に関節を狙っていくサトシと、そのほぼ全ての局面に応じて、完璧な対処で抜けていくマッキー。サトシをこんなに防御できて凄い!とかいう倒錯した感想が出てきます。特にトップやバックを取られているのにそれを全部返していくマッキーのテクニックや知識、そしてフィジカルはこれが世界の頂点かと思わされます。ただ、サブミッションによるアタックの数や待機時間はサトシの方が圧倒的に長く、それに匹敵するほどマッキーのストライキングがサトシに刺さっていたようには思われず、最終的にはマッキーが3-0の判定勝利をしたわけですが、僕から見る分にはサトシの判定勝利ではないか?と思われました。変な話ですが、先日のタイトルショットでピットブルが勝つなら、今回もサトシだろ、と。ああでも逆かなあ。リベンジタイトルマッチではけっこうマッキーが固めに行っちゃって、それが評価されずにピットブルが勝ったようなので、サブミッションのアタックが全部無意味ならマッキーが勝ちということにもなる。実は僕はこれをそんなに不当だとは思っていなくて、堀口ミックス戦のインパクトが凄かったんでバックマウントを攻撃として認定する価値観が少しすりこまれたんですけど、サブミッションでのアタックはフィニッシュできなかったら取らないくらいでちょうどいい、という気はしています。同様にトップを取ってのキープもまあポイントじゃなくてよい、と(これは最近は明確にそうですが)。でもパウンドなどの打撃はダメージ……じゃなくてアグレッシブネスに取るべき。相手が全く攻撃できないくらいに支配しきったらジェネラルシップで優勢勝利にすればいいんですよ。でも攻撃されてたら、むしろマウント側は防御に回っているといえるんだから、そりゃあ優勢取られてもしょうがない。

 もちろんサトシはめちゃくちゃ攻撃してたんで凄かったんで全然勝ちもありえるなと思ったんですけど、ここまでの裁定の価値観をあてはめてみると、ニアフィニッシュだったの? っていう話で、ニアフィニッシュじゃなかった、とは思いました。これはスーチョルがアーチュレッタに最後にギロチンを仕掛けて少しハマったのをダメージと取るべきだ、という議論があったのを記述忘れていましたが、これも結局抜かれているんで、ダメージとは取らなくていいし実際取られていなかったことからも言えます。そう考えると、打撃の手数やヒットはわずかにマッキーが多く、かつ寝技の攻撃を相殺するくらいにはマッキーの防御は完璧だったな、とも思います。パトリシオと違って攻めさせて打ち消しているから印象が違うだけですね。

 もちろんサトシはマッキーを極められる可能性があったと思うし、これまた5Rあったらわからないな、と思いました。武田ラバダノフにおける「打撃対策」の紙一重で、本当に薄い、けど分厚い差があったな、というのとは、これは違います。サトシとマッキーは、たまたまマスト判定だから評価がついただけに近い。見方によってはサトシは勝っていましたし、試合がもう少し長ければそれはよりはっきりしていた可能性があります。だからといってこれを誤審だとも全く思わない。判定を委ねるというのはこういう難しい判断にやられることだと思います。判定3−0になったのは、ユナニマスで優勢だったというより、単に判定基準が一致していただけの話で、実際にはとても僅差だったと思います。

 

 とはいえ、今回のRIZIN、ベラトールのレフリーが入っていたことで少しぎこちない感じになっていたことや、日本ホームであることによって逆にちょっとベラトールびいき(というかRIZINに厳しく)になってしまった面があるかもしれないな、というのも感じました。KOでなければ、こういうことになるのは仕方ないことです。でも、素直な印象で、マジでたまたま判定が反対だったな、と思ったのはサトシ・マッキー戦だけで、他は全て見た目の印象どおりの結果でしたね。そもそもKOばっかりでしたけど。

 

 そういうことで、たいへん素晴らしい興行でした。2.3万字も書いてしまいました。みなさん本年もよろしくお願いいたします。