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随想10 はるしな

慢性的な頭痛をロキソプロフェンナトリウムで押さえるが、一ヶ月前とかにはなかったタイプのものため堪える。ニコチンの禁断症状かもしれず、その他もろもろの心理的ストレスからも一本吸おうかとさりげないが強烈な誘惑にかられ、なんとかそれをやり過ごす。最後の方は煙草の代わりにウィスキーを煽って誤魔化している。シーバスリーガルのミズナラ12年。そんなに高くないが、後味がケミカルな気がする。ミズナラじゃなければもう少し軽く飲めるかもしれないし、ブレンデッドではなくスペイサイドにすればよいのだが、この酒を買ったのも急に衝動的に飲みたくなったときにUberEatsで酒屋から配達できることに気づいたから以上のものではない。本当はマッカランを飲みたいところだが、18年が5万円と、気づいたら随分と高級な酒になってしまった。といっても18年なんて飲む必要はないどころか俺の好みではないのだが、10年ものが市場になくなり、12年ばかりになった。10年が一番好きだったな。ダブルカスクの12年が妥当だがこれも1万円を超えるのでそんなに気軽に買う酒ではないが、まあチビチビ飲むには別にいいのかもしれない……。マッカランでなければグレンフィディックあたりがよいかもしれないが、あまりにも飲まなすぎて酒の味を忘れてしまった。グレンモーレンジやグレンリベットもある。このようないい酒には紙巻煙草や葉巻が合うのだが、と煙草を避けるはずの酒で煙草を思い出すのは本末転倒だった。

 

岩倉さんがはるしにゃんについて文章を書いていたので驚いた。といっても生前の繋がりはなかったようだが、それでも驚くのに不思議ではない。なんで話題になったかというとはるしにゃんのtwitterアカウントが凍結されたからで、そのことは俺も認識していたが、他の人たちも同様に気づいていたようだ。俺は彼をはるしにゃんと呼んだことはなく、便宜上そう書いているが、認識したときにははるしなで、実際には認識する前のtwitterアカウントも見ていたのだが、急に過去ログを消してウテナっぽいアイコンにして名前をはるしなに変えたものだから、その後少しの間「元の名前は何だっけか」「内容は何だったか」と思い悩むことになった。2010年頃のことだったか。俺はそれについて言及する特別な立ち位置にいると思うが、ちょうどコンテクで一瞬だけ働き、その際に何の弾みか自分を美少女擬人化した「むりゃかみゆう」という存在が立ち上がって、はるしなはそのコスプレをすることでキャラクターを立たせることを始めたはずだった。謎の自撮りの投稿を見てたいへん困惑したことを覚えている。そのときはかいん君というやつとペアみたいな関係性で、なんとか組曲みたいなパロディ動画を作ったりなど、先鋭的というか、先陣的というか、とにかくいろいろやっていた。

 

そういうことがあったにもかかわらず特にまともな関わりをすることもなく気づいたらかいん君が死んでいた。そのときのはるしなは随分と気丈というか冷静に振る舞っていた記憶があるのだが、その後彼の活動はより顕在化していって同人誌を出したりイベントをしたりしていた。俺が『ゴーストの条件』を出したあと、彼は「イルミナシオン」という同人誌を企画していて、そこに寄稿依頼をもらったのだが、謎の勢いに恐怖を感じたのと単純なスケジュールの都合が重なって断ることになった。その後まともにやりとりすることがないまま数年が経ち、俺が彼とリアルで出会ったのははるしなが死ぬ年である2015年の春先で、彼主催のトークイベントに黒瀬さんと土屋さんとともに登壇したときだった。なんで受けることにしたのかわからないが、なぜか受けた。その後、次の同人誌への原稿依頼をもらい、イベントでの感触がよかったのか、前に依頼を蹴っていたことを覚えていたからなのか、即答で「いいよ、やりましょう」と受けることにしたのだが、その過程で彼の別名の殻辺三舟になぜか複数のアカウントでフォローされたり、逆にはるしなではなく本名で依頼が届いて誰かわからず困惑したりと(しかもその名前がまた俺と縁があるものだから混乱が極まった)、さらにイベントで直前までやりとりをしていたのに急に記憶喪失をしたように「はじめまして」的なメールを受け取ったりで、あまりにも困惑する羽目になってしまったのだが、その原稿ができる前に彼は飛んでしまった。7/1が締め切りだったのだが、その期日までには全く書けず、締め切り伸ばせるかと聞いたところ、大丈夫と言われたので執筆を継続したが、それが最後のやり取りとなった。そのとき書いていた原稿も残っていない。

 

昔を知らない人にとっては美化された存在かもしれないが、改めて振り返ってみると、彼も彼を取り巻くものも「あの頃」のインターネット感が凄くてびっくりしてしまった。問題ばかりだったし、彼の周辺やはてブなんかの民度の低さもひどいものがあった。最近はtwitterの方が2chより民度が低いなんて言われたりするが、友敵度合いが高まったおかげでむしろシンプルであり、もう少し良くも悪くも複雑性というか難しさみたいなものが高かった「あの頃」のインターネットは、もう少し陰険で性格が悪かったように思う。あとはるしなの存在が震災をまたいでいたことは稀有と言えば稀有で、やっぱり2010年と2015年では空気が違うな(同じことも多いが)と思わされるのだった。

 

まあ、なにもかもだからなんだ、と思ったりもするのだが。昔はよかったが、生きるのは今だ。